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Collection詩集 T         



白井明大
白井明大



















































詩集 
くさまくら

白井明大
花神社 20078

いま台所のライトの下で
書いているぼくから
朝のぼくへ
そして昼のきみへ
交信したい     (「二つの一日の時間へ」より)



 

 とっておく場所

 台所の流しのしたを
 開けたらあるのをもうわかっていて
 開けてみたらキットカットのお徳用
 ミニサイズ十七枚入りが入っていて

 お湯をわかしてお茶にする

 キットカットを開ける
 窓に人や花や犬の絵がちりばめられている
 カーテンがかかって
 午後の明かりを淡くぼかしている
 湯のみを
 持ち上げたあとのテーブルに水滴がついてるのを
 飲みながら手の甲で拭いたりして
 またチョコを食べて

 そろそろ帰ってきてしまうのか
 まだふとん上げも洗たく物入れもしないで
 おやつにしてるままで大丈夫か
 時計をみたり電話やそとの廊下の音を気にしながら
 新聞を積んであるなかにはさまってる
 今週初めのジャンプをとり出しにいく





  たいした理由

 とても外食に頼っていた
 一人暮らしのときみたいに
 一人で夜ファーストフードで
 ご飯を食べているのは久しぶりで
 しばらくしていなかった気が
 ちゃんとする

 
べつに新鮮でも
 懐かしくもない
 トマトソースのチーズバーガーと
 ミネストローネスープを
 食べて飲んだら
 味が濃くて
 口のなかが喉がかわく

 窓ぎわの席で
 車のライトが光って
 通っていく
 斜め向かいの
 コンビニエンスストアの看板が目立って
 青い

 食べてしまって
 店が風通しよくすいていて
 すぐに出る必要がなくて
 しばらくいる
 飲みには行かない
 けんかして出てきて
 三十分で帰るのは
 情けないカッコわるい
 ような感じがするから
 もうちょっともうちょっと と思って
 いる

 
すわっている
 これは何に似てるんだろう
 することがとくにはなくて
 ややねむたいような
 家にはやく帰って体をやすめたい気分で
 でもまだしばらく待ってなくちゃいけない
 この感じは
 始発を待っているようなのか
 午後じゅう家で電話を待ち続けているようなか

 目だけうごく
 店のなかの子どもモデルのポスター
 歩道を歩く人
 テーブルのうえの携帯
 うごいてはとまって
 そろそろいいかな て
 時計をみたくなっている

 五十分が経って
 ゆっくりご飯を食べて
 楽しんできた という顔はたぶんしてないししておこうと思わない
 席を立って
 店の遅い
 自動ドアを開けにいく






  お茶のまとまり

 
役割をすませてお盆のうえに
 湯飲みと急須がそろえてある

 隣りの部屋の蛍光灯の明るさが
 半分あいた襖から入ってきて
 磁器のしろさを浮かばせて 陶器のにぶさをにじませて
 お盆のうえだけ夕はんのあとをよく覚えている

 お盆の円はもう一つ ちゃぶ台のうえにあって
 中心のずれた二重の円が畳みの部屋の中心からすこし
 ずれた場所でこちらの重心をうつしとるように
 置かれてあって
 すこしずつ体重がかるくなっていく

 蛍光灯の明るさで半分明るみにある
 お茶をした食後の時間が静かさを横において
 迫ってくる ようで

 さっきの器に いまの器が
 溶け合わさっていくというふうに
 お盆のうえにいくつものかげが輪郭を重ねていくのか
 湯飲みと急須がひとまとまりの時間と
 そろってある

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