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Collection詩集 T        


眞神博
眞神博


















































































詩集 
修室

眞神 博
ダニエル社 20087

決して群れることのない巨木
人間にとっても 鳥にとっても
自分より大きなものがあるというのは
とても幸せなことだ (「雀たちの巨木」より)



 

  一羽の鳥は一人の人を助けている

 

 刃物のような光で目覚める
 私の目は 空の奥を飛ぶ鳥を映す
 目に映る世界は鳥と
 鳥でないもので出来ている
 鳥でないものはみんな
 空の様に青い

 昼
 私は何かを見ている一人の人を見る
 その人の目は
 葉っぱが剥き出しになっている木を映す
 繁る葉っぱの数は
 この世に生きている全てのものの寓意だ
 そして人の心は
 鳥が木に止まりまた飛び立つと言う事実の中に秘められる

 夜
 鳥と鳥でないものは
 二十四時間というものによって処理され
 全て或る場所で死ぬが
 それでも日は改まらない
 また目覚める様なことがあれば
 どこかへ旅立つ相談をする

 一日中風が吹き続ける狭い夢の中
 一羽の鳥に
 一人の人が助けられる





  公園

 
いつものように壊れかけた自転車に乗って
 公園の前に差し掛かると
 めずらしく私の影が 地面に映っている
 これも自然科学だ
 私はどうしていいか分からない

 公園の中に 私の心の中心が見えるが
 私は公園には入れてもらえない
 手入れが過ぎて破綻している公園に
 人はみんな勝手に自分の自転車で乗り付けてくる

 公園の前で私の身体は
 だんだん目に見えない忘れ物になって来る
 私はどうしていいか分からない

 やがていつものように
 私から自転車だけが取り上げられて
 事故が予測される一方通行の道を
 逆送させられ 生き延びて行く
 もう当たり前のことになっている





  言葉の素肌(惜別)

 
見て下さい
 空はあそこでカーブしている
 カーブして見えなくなる
 どうか
 気をつけて行ってきて下さい

 見えなくなっても
 空が続いていることが悲しい
 あそこが私たちの時間の終わり
 空は時間をさらに尊くするかの様に
 カーブしている

 冬空に
 まさか蝶が飛んで来るとは思わなかった
 曇った空からはまだ雪が降る
 そこに言葉を一つだけ持って行くとしたら
 「水」という言葉を持って行こう
 もし何も持って行けないとしたら
 自分の事をどうやって説明しよう

 新しい約束
 新しい強制
 私は今でもドキドキしている
 言葉の素肌で語られる
 速い物語


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