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Collection詩集 T        


中田吉彦
中田吉彦


















































































詩集 
乾杯

中田吉彦
海風社 199210

ときに もてたでしょうとは過去形のようだ
が それでいいのだ いってみればいつまで
も継続審議 それは十分現在だから (「アメリカンを一杯」より)



   

  ピンポン

 
  (T)

 キミは相手だ いなくてはならぬ
 キミは敵だ 消さねばならぬ
 スコラ風の冗談に
 おどけた殺意をかくしている
 たて続けに二進法が完了し
 ゲーム機たちは鳴り続ける
 ミネルバの梟なんか もういない


   (U)

 苦もなく海峡を越え
 難なく山脈を幾めぐり
 風が鳴り
 揺れ動く鳥瞰図の果てに
 傾きながら きりぎしがひかる
 出奔 それとも持続の断面
 ヴァガボンドはいつも歌ばかり
 はるかなコスモス





  詩論(A

   (T)

 ルービックキューブを
 苦心の末にマスターした
 手がけたのが遅く
 ブームは終わっていた
 独楽とケン玉は
 小学生の頃から長期の名人
 詩よ いつもちらつく
 キツネ色の未来


   (U)

 滅多 喜びの見世場はない
 堅すぎる材料だ
 つねに苦渋にみちている
 ふと軽みに憧れる
 いつでも使えるバラ一輪
 また無明がこぼれ
 構造の底でひかり出す





  平和論序説

 
鉄パイプのフレームに
 地蔵盆のカラフルな提灯が群生し
 遠景を旅客機がユックリ横切る
 この祭りとあのフライトは
 どこかで繋がる
 ソバはアメリカ・カナダから
 松茸は半島からきて屹立する
 インドネシヤのコンニャク
 胡麻はニカラガ・ホンジュラス
 親戚知己から飛び石伝い 廻りまわって
 気の遠くなるほど 知人の知人のそのさきは
 オープン胡麻
(セサミー) 世界は友だち

 核 コンニャク すべて潤沢
 滅多お得意様に 御不自由を
 おかけするこっちゃ ございやせん
 友好は日々に深まり
 あすにも危機が来そうに見えて
 日程はいつも延期され
 祝杯のたびごとに
 グローバルなオデンの湯気が立つ
 地球はシンそこ楽天的だ
 地蔵盆に健康な灯がはいる
 遠い夜間飛行が
 小さく赤・白・青で応えている
 そしてどちらも互いに知らない……

  

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