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       Collection詩集 Ⅰ 


内田正美
内田正美


















































































詩集 
光ふる街

内田正美
澪標 2011年12

  ねえ君! 明日になると
 やさしく幸せな朝がくるかい? 
 
 (「光ふる街」より)


  Photograph

きれいに撮って
もしも のために

乾いた シャッター音が
その一瞬を切り取った

始まりも約束も 絆も
すべてのものは
永遠の宇宙
(そら)に 溶けはじめる

写真は
きれいに撮れて
寂しい目をして
笑っている

野に咲く 白い花のようだ





  青い空

青い空は誘惑する 風の中から

おもい服を脱いで 旅に出た
緑の山と 澄んだ空
波だけがはげしくうちよせて光っている

光の中で うすい夢を見る
(わたしの空 あなたの空と まざりあって 対話してた)
あらっているのは激しい波だ
(あなたの空とわたしの空 交錯して 青白い花火あげた
無音の花火)

家族にみまもられて
ひらかれたひとみは
何を見ていた?

いとしいものは すべて呑みこまれて
空のいちぶ
ひそかに わたしを誘惑する

光の下 全てのものは いきいきと輝いている
わたしのそばを走りぬける赤いランドセルの小学生たち
こんにちは
アイポットを聞く高校生
さようなら
すれちがう白い遍路さん
ごきげんんよう もうすこしです

空は青をさらにふかめて
すべてのものに
降りそそぐ

目をほそめて 光の粒子
見つめている





  見えない駅

電車は街を抜けて 車窓に田畑が見えた
夏の強い光をうけて 木々の葉が光っていた

電車がホームにすべるように停車して
母親と子供が降りた
ホームにお祖母さんが待っていて
ガラスごしに 笑顔が見えた
幸せの 優しい 横顔
わたしは降りなかった

夕日が見えたころ
電車の隅で 病をえた女
(つま)が泣いていた
さみしい影がさして
声はなかったが 泣いていた
窓のガラスがかすかに震えて
わたしは降りなかった

いくつもの駅を 過ぎて
ゆるやかなリズム
夜の空から 静かに闇が降りてくる

もうすぐ駅に着く 家族の住む街に着く
闇の中に街の灯りがうかんでくる
わたしは降りるだろう
暗いガラス窓に映る 女の横顔
( うつむく女は
ひとり静かに ゆれている )

時はよどみなくながれて
音もなく冷徹に
レールは続いている
まだ 見たこともない 終着駅へ
闇に包まれた見えない駅

何処で女は降りるのか
夢のかたちでのみ込まれるのか
( 悲しみは霧の姿になるのか )

かすかに揺れ続ける
ドアが開くと なま暖かい風がはいりこむ
すれちがって
わたしは 降りる
もうひとりの わたしを残して

   

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