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Collection詩集 Ⅰ         


武内健二郎




















































詩集 
四角いまま

武内健二郎
ミッドナイト・プレス 201912

身体が気づいた誰のものでもない何かは、い
つか私の言葉となって浮かび上がり、ポロリ
と外へこぼれ落ちる。私が誰かに、繋がるこ
とを願いながら。
  (あとがきより)





  
採寸

マエミゴロ
ウシロミゴロ
ソデタケ
キタケ

呪文のように
祖母は呟きながら

幼いからだの
縦横に
物差しをあてていった

一枚の布の上に
わたしは
四角くかたどられる

鈴の音は
風を追い

まえみごろ
うしろみごろ
そでたけ
きたけ

わたしはまだ
四角い
まま




  遠く 見つめて

地面を這う白杖
の先端
で捉えた凹凸が
行き先を告げているのか

その人は
遠くを見つめて
細く黄色い道を辿った

校舎に入り
階段を登り

いま
204
号講義室の扉の前で
数字の凹凸を
指先がなぞっている

「今日の講義はこちらですよ」

振り向いて
目の前の私を
遠く 見つめた

「こちらですよ」
そっと腕を掴んだ時

その人は
身を固くして立ちつくす
盲目の人
と なった




  五月の風

老いた人が
遠く高みから
私を見下ろし
何かを掲げるように
ゆっくり
片腕を挙げた

握った手を
幽かに揺らし
目にみえぬものを
はためかせた

私は
手のひらを
その人に向け

強く広げた

指の間を

五月の風が
吹き抜ける




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