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Collection詩集 T         



廿楽順治
廿楽順治


















































































詩集 
たかくおよぐや

廿楽順治
思潮社 200710

にほんごが徘徊する。
にほんごが泥酔する。
にほんごが管を巻く。(帯文より)


 

  肴町

 
ここでは
 なにを売ってもさかなになってしまう
 ぜつぼう なんて
 ひさしく聞いたことはなかったが
 このさかなの目
 だってそのひとつかもしれない
 くさくて
 にんげんなんかにゃ
 そのにおいはとても出せない
 そういうさかなになってしまえば
 ぜつぼう
 も おかずのひとつである
 死んじゃいけないよ
 語るやつらの権利にうんざりする
 さかなまち
 なんだからね
 むざんにかわってしまった
 (もとはとてもだいじなもの)
 それを
 籠ごとこうかんする
 くさいねえ
 わたしたちのまちは
 どうしていつまでたっても
 水の音がしないのだろう
 かなしいものは束で売るほかないのだ





  無呼吸。

 
 <>

 水がなんだか澄んできた。上流をにらみつけていると、ひら
 べったい年寄りばかりがながれてくるのである。じぶんの水
 のなかで語るやつら。くさってしまっていてよくわからない
 が、わらっているんだろう。こんな水、のんだら死ぬな。
 次々と流れてくる顔は、どれもドッジボールみたいで、とき
 どきくるっと回るのである。けっさくなやつらだ。ゆっくり
 と水に入って、いちまいいちまい、わたしもじぶんの皮をは
 がしてみる。水がなんだか今以上に澄んできたみたいだった。



  <夕日>

 どんぐり砦の興亡をながめていた。どうでもいい戦争。とい
 うものはありませんが、どうも参加する気がおきませんので
 す。あんたそういう了見はいけねえな、という若い衆に囲ま
 れて、いえそういう意味ではありませんよ。あわてて言うが、
 それはうそなのである。近所の僧兵がみんなあつまって、中
 唐のころおぼえた変身術をきそっている。なににもなれやし
 ねえよ。ためしに石ぐらい投げつけてみるか。腹がぶるぶる
 してきた。わたしは戦争が好きなのかもしれない。戦うのな
 ら、高地がいいな。それにしても、ずいぶん長い影ですな。
 そいつはおやじさん、あんたの方さ、と言われて後を見た。
 もう戦後だ。細く伸びた溝のような一本が、尻から夕日にむ
 かってぞろぞろ伸びている。え、うそだろ。



  <>

 街道のかたがわでは犬が、何匹もいなくなっていた。悲しい
 のだろう。関係ないひとまでがかたよって集まっていた。街
 道がそちらの方へ、みしみし傾いている。そりゃそうだよ。
 わたしはこわくなって反対側を歩いてしまう。何匹もいなく
 なったからといって、みんなそっちに固まるのはどうだろう。
 世間が犬で傾くのはよくない。もりあがってますなあ。区役
 所の人がなんだろうと、視察にやってきていた。あんまり悲
 しいので補助金が出るのかもしれない。ほんとうに犬なんで
 すかね。どっかの小僧さんかなんかじゃないの。うたがう区
 役所の係長には死相が出ていた。集まったものたちはくやしく
 て、死ぬぞ死ぬぞ、とみんなで音頭をとっていた。


               ―「無呼吸。」連作より一部を掲載―

  

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