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       Collection詩集 Ⅰ


山中従子
山中従子
































































詩集 
死体と共に

山中従子
澪標 2012年2

  

消えていく刻ばかりを捉えようして言葉を捜しつづけている
今の私を、子どもの私はどのように見ているのだろう。
(あとがきより)





  出会い橋

ここは出会い橋
夜 そこで
人は自分の死体と出会う
橋の上で
その死体と抱き合い踊り明かす
生きたまま忘れられた人間たちが
何処かから集まってきて
橋の上で
一つの満月になっていたりして
出来立ての死体が踊るそばで
私はギターを弾き続ける
ときどき私の死体は
私のほうを見ながら
目の前で
ひとり軽やかに踊りつづけている
私はそのときはっきりと知った
私の一生は
自分の死体のために
ギターを弾きつづけることに
あるのだと





  蔵王高原

「そのリフトに乗っていくほうが 山越え はやいよ」黒い
山の吐き出す声に 目の前にあるリフトに飛び乗った 私の
ほかには乗客は誰もいない 空っぽの椅子が前にも後ろにも
整然と続いていた つぎつぎと地面の下から現れて 空のな
かへ消えていく無言の椅子 進むにつれて地表が足元にせま
ってくるところもある とつぜん葉先の尖った草が伸びてき
て私の足を刺す 草の間に 久しく会っていない幼なじみの

顔が見えた 友は仰向けになり 大きな目を開けたまま動か
ない 「どうしたんだ こんなところで」私の声にも微動だ
にせず なにも言わない 開きっぱなしの瞳に はるかな時
空へ流れていく空が映っている リフトはそんな友を置き去
りにしたまま動いていく 山の中腹で また 横たわってい
る人物が見えた 彼も ずっと会っていない昔の友だった
やはり私の問いに答えず 見開いた瞳に 無言で帰っていく
青空を映していた 生い茂る草の間に 地表の縫い目のよう
なものが走っている 止まらないリフト 私は 自分の死体
をリフトにぶらさげたまま 草のなかに横たわっているマネ
キンになってしまった友を つぎつぎ置き去りにして 通り
すごしていく





  冥王星

闇の底から
冥王星の色の目をした一匹の犬が
じっと見つめている
私も
闇の淵から見つめ返す
毎夜 たしかにその犬は
同じ場所に座って 私を見つめている
闇の方角ばかり気にしている私の目に
何が映っているのか
その犬だけが知っている


   

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