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       Collection詩集 Ⅰ  


武西良和


















































































詩集 


武西良和
コールサック社 2013年4

私は、山のなかに生まれ、育った。だから、海は憧れだった。
…だが、海に近づくにつれて海が怖くなっていく。嵐の海は怖いが、
凪の海でも、その深みに得体の知れないものがいる気配がする。
(あとがきより)





  (きん)の網

風がゆする
水面がゆれる

水底に金の網が光る

網のゆれが魚たちの泳ぎを磨いていた
網は柔らかく心地よく
泳ぎ進むにつれ
研ぎ澄まされていく

波が止み網が引き上げられた

魚たちは急に不安になり隠れようとしたが
岩陰は余りにも遠く魚は
透明に捕えられ
自らの影に身動きできなくなった

それを見た男の子が
手を突っ込んで掻き回すと魚は
広がる輪になって
どこかへ行ってしまった




  魚と少年

尾びれを揺らし
ぷくぷくと口を動かし
岩陰でバランスをとっていた

勢いよく手を突っ込み
つかんで陸に放り上げる

砂まみれになって躍る白い腹に
釣り針を差し込み
引き裂いていく

ピクピク動く生命の輝きを
針の

先端が奪っていく

浮き袋
心臓
肝臓

……

臓腑をすっかり取り出された魚は
動きを弱め
やがて動かなくなった

魚は焼かれ
食いちぎられ
日焼けした少年になる

手のひらに魚の

と白い
動きを残して岩陰に
かえっていく




  
潮岬(しおのみさき)灯台

――六十四段


登り切ると外は明るく
雄大な海の景色

震えが踝
(くるぶし)をつかみ
ガタガタ揺さぶる

眼下に広がる黒い岩が
足もとに警告する

――油断するな

太平洋の荒波も叫んでいる

――ここからみれば
  お前など貝殻の破片ほどでもない

あわててなかに入り
階段の手すりを強く握った


ひんやりが指を縛った

   

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