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Collection詩集 Ⅱ



小西民子
小西民子2






























































































































詩集 
春のソナチネ

小西民子
編集工房ノア 200911

 桃をかじる

  ふたりでひとつの桃を
  かじる

 交互に
 皮ごとかじる (「空の木」より)



   春のソナチネ

   *

 くつろぐ天使は
 ソファーに
 くぼみを残して
 今はいない

 千年後にも残る
 北イタリアの土を
 焼くために
 神戸の画廊から
 飛び立った
 ところだ

  *

 こころに落ちる
 緑の影は
 とっても痛い

 明るい夢のなかで
 揺れないぶらんこの午後にも

  *

 月夜の

 
部屋はとくに昏い
 地球をぼんやり照らし

 私たちの会話は
 とぎれたままだ






   秋のソナチネ

   *

 鳥の影がよぎってゆく

 青い
 空からはずれて

 一羽
 飛んでいるのは

   *

 木の中を
 キリンが歩いている
 ときどき
 立ちどまり
 まわりを見まわして
 高い木の葉を食べる

 本を閉じると
 私の中に入って
 暗い夜を一緒に夢をみる
 そして

 私の未来を知っている
 キリンは

 私より早くめざめる

   *

 羽根が

 
雨のように
 重たい

 もどれない
 遠い
 きのう

 捩れているきのうへ





   通過するソナチネ

   
*

 深くて青い
 穴はいかがですか

 穴売りは
 夏の路地を
 通り過ぎる

  *

 カナカナ蝉ハ
 カタカナデ 鳴ク
 都会ノ
 夕暮れヲ
 カタカナデ 鳴ク

  *

 空のような
 体を移動させて
 街を歩いていると
 きのうが
 こんなにも
 と
 お
 い

  *

 涼しげに
 通りすぎてゆく





   一日を

 一日を
 事情の多い夢の中ですごす
 それから
 朝が来て


 
夢の中に
 わたしが
 登場していただろうか


 野に
 菫色の換気扇が
 回りはじめる


 すみれの花が咲く


 花束を抱えて
 くりかえされる


 ただいま


 おかえりなさい

  

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