夜凍河 17



ゲスト:秋葉宗一郎
  
yatouga17
      
写真:『 epitaph 』 堕天使


                             

滝 悦子
 詩を読む講座に通っている。一度辞めて数年後に出戻り、その後も中断しては復帰してと落ち着かないが五年になるだろうか。
 ここでは、いまどきの詩を読む。なじみやすいもの、そうでないもの、呆然とするもの、現代詩と呼ばれているものを読む。読んで感じたことをそれぞれが喋る。聞く。聞いてまた読む。また喋る。同意もあれば異論もあり、思いがけない指摘にうなったり仰天するたび、そのときだけでもすこし視界が広がったような気がして面白がっている。それにしてもいろいろな詩があって、しかも十人いれば十通りの考え、受け取り方。いまだに驚くことばかりである。

                


                                     
秋葉宗一郎
                      akiba





 
      冬の日
                      秋葉宗一郎



  坂の上に出てしまった。播州平野を吹き抜ける風には雪が混じり、
  さらさらさらさら枯野を打ちすべっていた。向こうを見遣れば、沼
  は鈍色の空を映して、白濁したみどり色に沈んでいた。
     

  他所者を咎めるような地元の人間に一人も出遭わぬまま、どんどん
  畔を歩いていった。冬田に片足を突込んだ奇妙な鳥居を横目に過ぎ
  れば、やがて黒い木立に囲まれた社へと続いた。枯菊の束が積まれ、
  焚火の跡に蜜柑の皮が残っていた。ふいに現れた野狐が問う。

  かたそでのながせにゆるるつきかげを
  さなりあはれとおぼゆるはたぞ
     

  暮れかけて、過ぎてきた風景と共に障子を閉める。火の気のないほ
  の暗さが一層深まった。指先は湿り気を失って悴み、もはや紙をめ
  くることもできぬ。埃まみれの黒く変色した干柿に手を伸ばすでも
  なく、後生大事に懐にしまっている、掌に納まるほどの鰹節の固ま
  りをしゃぶるでもなく、私は自分自身に絡みつきながら、根のよう
  にわずかな呼吸をしていた。
      

  うつむけば今在ることの不思議さよ
  我が身のかげを月は定めり








 

     夜凍河17 2010.02 
 秋葉宗一郎  冬の日  海
 滝 悦子  原っぱのむこう、古いバスが来て


    







 
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