夜凍河 21











 

                      

                

 

      「コロンダ」
                      
滝 悦子


  列車が着いた
  遠くから来た

  そんな声がして
  通り過ぎるつもりだった路地の奥へ 奥へ 
  いそいで

  銀色の車両
  大きな赤いドア 同じ角度で外向きに開かれ

  日付と支払イノ金額 死ンダ人ノ姓名 日付と
  デキゴトだけを記し続け
  そのひとも降りた
  終着を告げるアナウンス
  丸い天井に響いたざわめきや杖の音などなかったように
  しんとして

  だが、列車はここから出る
  始発列車となって
  遠くへ行く

  銀色の車両
  磨かれた赤いドア 迎えるように外向きに開かれ

  窓際に座り
  シートの固さを確かめ
  日付と死亡推定時刻 氷点下七度 ひそひそと
  奇妙に賑わう夜のろうそく
  そのひとなら
  はじめから棄てるような縁どりばかりを拾いあつめて

  「三月十七日 コロンダ」

  とても遠い
  行先表示板が点くまえに
  ちいさなノートを買いに行こう






                              










     夜凍河21 2014.04 
 滝 悦子  「コロンダ」  結びを解いて







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