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       Collection詩集 U


貞久秀紀

貞久秀紀1


















































































詩集 
リアル日和

貞久秀紀
思潮社 19968月 

日なたぼこですね
垣根ごしにいっている端から
陰りだしてくる
ではさようなら (帯文より))
 



   正坐クラブ

 正坐をもちあるきはじめて
 一ト月を数えるころ  
 なじんだ道をそれ
 草かげに臥したまま正坐している
 竹林のおくから  
 青みがかってでてきたあのひとも
 なじんだ道をそれ
 空気づたいにきたのだろう
 いまひとつの草かげに
 正坐のままはげしく
 放尿するために




   遠近法会話

 骨を組むのがおもしろく
 通りかかるたびに見上げていると
 「ひとの家なのになぜ拝みにくるのか」
 組まれた木にまたがって問うてくるひとがあり
 高さのちがいが拝むすがたに見立てるのではないかと
 空へ

 ゆるやかに投げかえすとそのひとは
 鳶のズボンの羽をぱっとはたき
 木をするする伝って降り立ち
 しっかりした体躯であるのに丈は低く
 近づいてきてふたたび「なぜ拝むのか」
 低いところから拝むすがたでいったあと
 羽をはたいてもとの高さへするする登りかえり
 登りながらわたしを遠近法で這いつくばらせ
 空へ
 ゆるやかに近づくにつれてわたしを
 拝むすがたに組みあげてゆく





   す

 とつぜん
 す
 を
 入れられる

 入れられてくらくらっ

 草に伏している

 「からだを棒にのばしています。ふたつの手を胸にかさねて
 「すずしく病んでいます。からだに中空を植えられて

 すは青青とそだちからだの
 うちそとを青青とつうじて

 「五月
 「わたしのなかにわずかばかりの外がある

 すぎてゆく息をくぐらせ
 くぐらせて
 そとから溢れている
 笛のかたさ よ

 「なかから湿潤です。やわらかく
 「草も生えそめて




   父

 素手でパチンコへ行く父の
 あとから漕いでついてゆき
 植えつけのころの日あたりのよい道を

 父をまもりながら漕ぐうちに
 体中が粘り

 ことあるごとに端を発しても
 いつになく粘りだしてかたまり
 父をひとり行かせて道に伏していると
 父は遠く
 うつくしい球形で
 素手のまま
 パチンコ店に吸われてゆく



 
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