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Collection詩集 U
         


神田さよ
神田さよ


















































































詩集 
おいしい塩

神田さよ
編集工房ノア 20071

 やがて月日が経ち
 広場は「通路」に書き換えられた
 繋がりが
 ほどけていったワレワレ  (「新宿駅西口地下広場」より)



 

  十一年目

  更地

 柿が熟し
 金木犀の花が散り
 白い山茶花が咲いた
 更地に家はなく庭だけが残っている
 いまだ戻れない老いた夫婦

 ロープで囲まれた住処
 土の色
 人のかわき
 さらけ出している




  神戸東遊園地

 
富士から贈られる雪で
 十七日にたくさん並ぶ雪地蔵
 今年は姿がない
 ニュースで伝えられている大雪
 北陸で雪と闘う
 人々の荒い息
 遠い神戸で聞く




  ボランティア

   
かしまさん
   十七日にはきますね

   いやいや
   来年は
   もう無理

 そっとベッドに横たわる音
 外は師走の夕暮れ
 奥さんが悲しそうに手を振ってくれている






  夕暮れの音

 
リビングに座り
 取りこんだ洗濯物をたたむ
 白いタオルの端と端を重ねて
 膝の上で折る
 平凡な一日が終ろうとしている
 どこからか
 受話器を置く音

 今日読んだ新聞の小さなコラム
  ハマス幹部アブドルアジス・ランティン氏の妻は、息
  子に依頼された自爆によるテロを、電話で断った。
 盗聴された電話の記事がテープになった
 母親が
 受話器を激しく置いた音
 あるいは静かに置いた音
 繰り返し
 胸のなかで響く
 拒否の音
 洗いたての白いタオルを
 膝の上でもうひと折りする






  おいしい塩

 そのひとが
 くれた塩
 ―おいしい塩
 といって

 すこし舌にのせる
 結晶がくずれ
 舌がしびれる
 水をのむ
 ふたたび
 ひとつまみの塩
 刺す辛さ
 水をのむ
 どんどんのむ
 体の中が海になる
 浮かぶ
 沈む
 舌


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