
詩集 長いノック
橋本千秋
編集工房ノア 1998年10月

焦点距離
じっと見つめていると
胸の奥で
発火する
マグマ
氷点下の朝
火を抱いた
星にいることを
思い出し
手をかざしてみた
長いノック
らせん階段を
昇っていくと
ベルを押す前に
ドアが開いた
屑籠
何の音と
耳を澄ませば
丸めて
放り込んだ
想いが
ひらいていく
あじさい
しばらく
見ないと
思ったら
こんなところに
落ちていた
青い空
苺
噛むと
嘘って
音がする
形状記憶合金
思い出せるような
気がして
指先を
暖めてみる
静電気
セーター
ブラウス
スカート
ストッキングと
脱いでいく
今日の脱皮は
すこし痛い
洗う
満開の
桜の花びらのなかに
手を入れる
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