夜凍河 16



ゲスト豊崎美夜

yatouga16

写真:ホテルプラザ(1999年閉鎖)
販売のゴブレット。部分。



     


ハミングバード  豊崎美夜 
 「人は死ぬと二十一グラムだけ軽くなる。それはハミングバードと同じ重さなんだよ。」
映画『二十一グラム』の中で、こんな言葉を耳にした気がする。死の持つ暗い影が小鳥のイメージによって少し明るく感じられるのは不思議だ。映画『レイ・チャールズ』では、好きな女の子と待ち合わせをするレストランの窓辺で、盲目のレイがハミングバードの羽ばたきに耳を澄ます場面が印象的だ。ハミングバードは北南米に棲息する愛らしい鳥だ。私はまだ映像でしか見たことがないが、ストローのような嘴で花の蜜を吸う姿を、実際に眺めてみたいと思う。



そんなふうに  滝 悦子 
 ある言葉や情景が、ふと浮ぶ。泡粒のように、ぽこん。浮んだものに意識が向かってはじめて、話の前後を思い出す。それはたいてい耳にイタイことばかりだ。
 どういうものか、と言っても要はヒマだったのだろうが会社の観葉植物の世話に夢中になっていた。お金をかけずに、いかにそれっぽく作りりあげるか。そうして一番陽当たりの良い社長室は温室、を通り越えて、すっかりジャングル状態。このさい肩書きを緑化委員長に変えようかしら!はしゃぐ私に、同僚は言った。
「そんなふうにニンゲンにもやさしくしてほしいな。」




  

      
檸檬譚
                   
豊崎美夜


     泣かぬなら
     銀色のスライサーで
     その身を削り
     切り口に塩をすりこむ

     おまえの感傷を
     ひりひりと 檸檬
     泣かせてやろうか
     薄い皮膚

     内的な果肉が
     もの悲しく搾りだされる
     センチメンタル
     生ジュース

     真剣に 檸檬
     慎重に 黄色
     いっとうピュアなグラスに
     氷を添えて注がれて

     乾いた舌が謙虚に並ぶ
     告白好きなテーブルに
     うやうやしく運ばれる
     酢っぱい酸っぱい お飲み物









     夜凍河16 2009.09 
 豊崎美夜  檸檬譚  ブラウン・ボッサ
 滝 悦子  Tonight







 
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