夜凍河 18    

      




ゲスト:月村 香

yatouga18

写真:Lamp 部分。





 ひらがな  月村 香
 わたしはひらがなが好きで、よどみなく流れるひらがなというものに永遠にあこがれる。だから句読点かぎかっこ等は大嫌いで、例えば本屋さんに行って本を選ぶとき、パッと開いてひらがなの割合が多いものを選ぶ。一文がぐじゃらぐじゃらひらがなでだらだらといつまでも続くものがいい。
 わたしのおばあちゃんといえば粋な人で、わたしがアメリカに住んでいたとき、秋口九円のとんぼの切手をそっと紙に包んで手紙の中にいれてくれたのだが、おばあちゃんの書く手紙もまたひらがなが多くうれしかった。「人生は長いのですから」と書いてあった。「も」の字が読みづらかった。出産で一時帰国したとき、おばあちゃんが「アメリカにいるだんなさんに、葉書を一枚一面に小さい小さい字でびっしりとうめたのを毎日送れ」と言ってくれたときはびっくりした。わたしはおばあちゃん子だ。



再読の日々  滝 悦子
 
ここだけ。ここに入るだけしか置かない。物理的にムリだから溢れ出すと処分。そうして残してきたはずではあるが、本箱の奥の奥にはすっかり黄ばみ、すっかりヤケて、帯や目次をながめても内容など思い出せない新書がひしめいていたりする。
この数ヶ月はそんな古本を中心に三・四冊同時進行、気分の向くままとっかえひっかえ読んでいた。すると、いまでこそ知っている、いまようやく繋がりつつある事柄がそこここに。私も成長したのと喜びかけて、しかし三十年以上たっても同じ方向、同じ世界ではないか。いまだに垂直読みしかできないとはいえ、私のアンテナはそれほど頼りないのかと心細くなって本箱の前に立てば、なるほど。
 再読にとりかかる前だったと思う。珍しく書いた手紙に「この頃は、すっと手が伸びたものにハズレが少なくなった気がしています。」…忘れてください。


 
      白い花
                      
月村 香


    ぽおーっとほの明るい息のできぬような風に襲われるような白い
   花のようなたくましいあなたの腕のような白い綿でもありかいなに
   巻くガーゼコットンあなたの肌着子どもたちのシャツそのような愛
   そのような母わたしは今子どもたちが月の表面を平手打ちして死ん
   だ蚊であり草に並ぶ虫でありああ耳のあたりをくすぐるのは何?働
   きすぎてからだをこわし朝お弁当を作れなかった母はどれほどの後
   悔でこの先生きてゆくのだろう鳥がさえずる少し熱をもらう




                             



                

 
     夜凍河18 2010.12 
 月村 香  白い花  冬の大気  ふたり
 滝 悦子  「しっ!」









 
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